アロマンティックとは?ロマンティックな惹かれがない多様なあり方を知る
はじめに:多様な惹かれの形を知るということ
私たちの社会では、「恋愛をして、恋人と関係を深め、やがて結婚する」といった、ロマンティックな関係性を築くことが一つの一般的なライフコースとして捉えられがちです。しかし、人の「惹かれ」のあり方は非常に多様であり、ロマンティックな惹かれを経験しない人も存在します。この記事では、そうした多様なあり方の一つである「アロマンティック」という概念について解説します。
「アロマンティック」について理解することは、人間の感情や関係性の多様性を認識し、誰にとっても心地よい社会を築く上で大切な一歩となります。ジェンダーや多様性に関心を持ち始めたばかりの方にも分かりやすいように、基本的なことから丁寧にご説明します。
アロマンティックとは何か
アロマンティック(Aromantic)とは、他者に対してロマンティックな惹かれ(romantic attraction)をほとんど、あるいは全く経験しないセクシュアリティのあり方を指す言葉です。ロマンティックな惹かれとは、特定の人とロマンティックな関係(例:恋人関係)を築きたいという感情的な欲求を伴う惹かれのことです。
アロマンティックであることは、感情がない、あるいは人間関係を求めないということではありません。アロマンティックな人々も、友人や家族への愛情、プラトニックな結びつき、あるいは性的な惹かれなど、様々な形の感情や人間関係を経験します。単に、社会で一般的に「恋愛」と呼ばれるような、特別なロマンティックな感情や関係性を志向しない、あるいは理解しにくいという特性を持つ場合があるということです。
性的惹かれ(セクシュアル・アトラクション)との違い
多様な性のあり方を考える上で、「性的惹かれ(セクシュアル・アトラクション)」と「ロマンティックな惹かれ(ロマンティック・アトラクション)」は分けて理解することが重要です。
- 性的惹かれ(Sexual Attraction): 特定の相手に対して性的な関心や欲求を抱くことです。
- ロマンティックな惹かれ(Romantic Attraction): 特定の相手に対してロマンティックな感情(「恋する」感情など)を抱き、ロマンティックな関係を築きたいと願うことです。
アロマンティックは、このうち「ロマンティックな惹かれ」のあり方に関する概念です。そのため、性的惹かれの有無とは直接関係がありません。例えば、以下のような組み合わせが存在し得ます。
- アロマンティック・アセクシュアル: ロマンティックな惹かれも性的な惹かれもほとんどない、あるいは全くない。
- アロマンティック・ヘテロセクシュアル: ロマンティックな惹かれはないが、異性に対して性的な惹かれがある。
- アロマンティック・ホモセクシュアル: ロマンティックな惹かれはないが、同性に対して性的な惹かれがある。
- アロマンティック・バイセクシュアル: ロマンティックな惹かれはないが、複数のジェンダーの人に対して性的な惹かれがある。
このように、ロマンティックな指向と性的な指向は独立して存在しうる概念であり、アロマンティックであることとアセクシュアルであることは必ずしも一致しません。
アロマンティックのスペクトラム
アロマンティックのあり方もまた、一枚岩ではありません。「アロマンティックスペクトラム」と呼ばれるグラデーションが存在し、ロマンティックな惹かれの経験の仕方や頻度、強度には多様性があります。
スペクトラム上には、例えば以下のようなアイデンティティが含まれることがあります。
- グレーロマンティック(Grayromantic): ロマンティックな惹かれを経験することが非常に稀であったり、特定の状況下でのみ経験したりするなど、アロマンティックとロマンティックの中間的な位置にあると感じる人。
- デミロマンティック(Demiromantic): 深い感情的な繋がりができた相手にのみ、ロマンティックな惹かれを感じる人。
これらの用語は、アロマンティックの多様な経験を表現するために使われる例です。すべての人が特定のラベルに当てはまるわけではなく、自身のあり方を自由に表現することが尊重されるべきです。
社会的な「ロマンティック志向」とアロマンティック当事者
私たちの社会では、ロマンティックな関係を築くことが多くの物語やメディアで中心的に描かれ、人間関係における究極的な幸せや充足の形としてしばしば提示されます。このような社会的な規範や期待は「アロマンティシズム(Aromanticism)」と呼ばれ、アロマンティックではない人々(アロマンティック・アライ)がロマンティックな関係を当たり前のものとして前提する無自覚な考え方や行動を指すこともあります。
アロマンティック当事者は、こうした社会的な「ロマンティック志向」の中で、以下のような困難や誤解に直面することがあります。
- 「なぜ恋愛しないの?」「いつになったら彼氏/彼女ができるの?」といった個人的な関係性に関する問いかけ。
- ロマンティックな感情や関係性がないことをもって、「どこか欠けている」「寂しい人」「冷たい人」などとネガティブに捉えられること。
- 友人や家族など、ロマンティックではない大切な関係性が社会的に十分評価されにくいと感じること。
- 人間関係における自身のあり方を理解してもらいにくいこと。
これらの経験は、アロマンティック当事者にとって、自身のアイデンティティを受け入れ、他者と良好な関係を築く上での障壁となることがあります。
ロマンティックな惹かれがないことと、愛情や人間関係の多様性
アロマンティックであることは、愛情や人間関係を否定するものでは決してありません。人間が経験する愛情や絆の形は、ロマンティックなものだけではありません。家族愛、友情、プラトニックな深い結びつき、クィアプラトニックな関係(恋愛感情を伴わないが、ロマンティックな関係に匹敵するほど深く大切な非ロマンティックな関係)など、様々な形で他者と繋がり、豊かな人間関係を築くことができます。
アロマンティックの人々は、これらの多様な関係性を大切にし、自身の心地よい形で他者と関わっています。社会がロマンティックな関係性ばかりを強調する傾向がある中で、アロマンティックの存在を知ることは、人間関係や愛情の多様性を認識し、価値観を広げることに繋がります。
多様なあり方を尊重するために私たちにできること
アロマンティックを含む多様な性のあり方を尊重するために、私たち一人ひとりにできることがあります。
- 学ぶ姿勢を持つ: アロマンティックに限らず、SOGI(性指向・性自認)に関する様々な情報を学び、理解を深めること。
- 決めつけない: 他者の関係性や感情について、社会的な規範や自身の経験から安易に決めつけたり、問い詰めたりしないこと。
- 多様な関係性を肯定する: ロマンティックな関係性だけでなく、友情や家族愛など、様々な形の人間関係がそれぞれの形で価値を持つことを認識し、肯定すること。
- アライになる: アロマンティック当事者の声に耳を傾け、理解者・支援者(アライ)として行動すること。
まとめ
アロマンティックは、他者に対してロマンティックな惹かれをほとんど、あるいは全く経験しないセクシュアリティのあり方です。これは、愛情や人間関係を否定するものではなく、単にロマンティックな感情や関係性を志向しない、あるいは経験しにくいという、多様な惹かれの形の一つです。
アロマンティックを含む多様な性のあり方について知ることは、私たち一人ひとりが持つ「当たり前」の価値観を見つめ直し、他者の存在をより深く理解するために重要です。すべての人が自身のあり方を肯定され、安心して過ごせる社会を目指して、共に学び、多様な人間関係の形を尊重していきましょう。