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多様性から考える障害:社会モデルの視点とその重要性

Tags: 障害, 多様性, 社会モデル, インクルージョン, バリアフリー

多様性とは、年齢、性別、人種、性的指向、価値観など、私たち一人ひとりが持つ様々な違いを認め、尊重することです。この「多様性」という視点から、「障害」について考えてみることが、包摂的な社会を理解する上で非常に重要になります。

これまで「障害」は、個人の身体的・精神的な機能の低下や損傷に主な原因がある、と捉えられることが一般的でした。しかし、多様性の理解が深まるにつれて、この捉え方だけでは不十分であるという考え方が広まっています。

障害の捉え方に見る視点の変化:医学モデルと社会モデル

障害に対する理解を深める上で、大きく異なる二つの捉え方を知ることが役立ちます。

一つは「医学モデル」と呼ばれる考え方です。これは、障害の原因を個人の機能障害や病気にあると捉え、その治療やリハビリテーションによって、個人の側が社会に適応することを目指す視点です。このモデルは、医学的なアプローチを通じて機能回復を図る上では有効な場合があります。

もう一つは「社会モデル」と呼ばれる考え方です。これは、「障害」は個人の機能障害そのものから生じるのではなく、社会環境や制度、人々の意識など、社会の側にある様々な「バリア」によって生み出されると捉える視点です。例えば、車椅子を使っている人が建物に入れないのは、その人の機能の問題ではなく、階段しかない、エレベーターがないといった建物の構造(環境のバリア)に問題がある、と捉えます。

社会モデルの視点に立つと、「障害」は個人の問題ではなく、社会全体で解決すべき課題となります。社会のバリアを取り除くことによって、機能に違いがあっても、誰もが社会に参加しやすくなる、という考え方です。

なぜ社会モデルの視点が重要なのか

社会モデルの視点を持つことは、多様な人々が共に生きる社会を築く上で重要ないくつかの理由があります。

まず、これは「障害のある人」というレッテルを貼るのではなく、多様な機能や特性を持つ人々の存在を自然なこととして受け入れることにつながります。社会に存在するバリアに焦点を当てることで、問題の所在が個人から社会へと移り、社会全体の課題として認識されます。

次に、この視点は、物理的なバリア(段差、狭い通路など)だけでなく、情報へのアクセスに関するバリア(情報保障の不足)、制度的なバリア(参加を妨げる規則や仕組み)、そして意識のバリア(偏見や差別)といった、様々な種類のバリアに気づくきっかけを与えてくれます。

そして最も重要なのは、社会モデルが目指すのは、単にバリアを取り除くことだけではなく、多様な機能や特性を持つ一人ひとりが、その人らしく社会に参加し、貢献できるような環境、つまり「インクルージョン(包摂)」が実現された社会です。

多様な「障害」のあり方とインクルージョン

「障害」と一言で言っても、そのあり方は非常に多様です。身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、内部障害など、様々な種類があり、その状態や必要とする支援も人それぞれ異なります。また、外見からは分かりにくい「見えない障害」を持つ人も多くいます。

これらの多様なあり方を理解し、それぞれの人が社会生活を送る上で直面するであろうバリアについて想像力を働かせることが、インクルージョンへの第一歩です。それは、特別な誰かのための配慮ではなく、すべての人にとってより生きやすい社会をデザインすることでもあります。バリアフリーやユニバーサルデザインといった取り組みも、この社会モデルの考え方に基づいています。

まとめ

「障害」を多様性の一部として捉え、社会の側にあるバリアに焦点を当てる社会モデルの視点は、包摂的な社会を実現するために非常に重要です。この視点を持つことで、私たちは様々なバリアに気づき、それを取り除くための具体的な行動を考えることができるようになります。

多様な人々と共に生きる社会では、違いは排除されるべきものではなく、社会を豊かにする要素として受け入れられます。一人ひとりが「障害」に対する自身の捉え方を見つめ直し、社会のバリアに気づき、学び、対話することが、誰もが安心して暮らし、活躍できる社会を築くことにつながるのではないでしょうか。