インクルージョン(包摂)とは?多様性を活かす社会のあり方
はじめに:多様性が重要視される社会
現代社会では、人々のバックグラウンドや価値観はますます多様になっています。このような多様性を理解し、受け入れ、活かしていくことが、より良い社会を築く上で非常に重要であるという認識が広まっています。
その中で、「インクルージョン(Inclusion)」という言葉を耳にする機会も増えたのではないでしょうか。これは、「包摂」と訳されることもあり、多様性を受け入れるだけでなく、誰もがそこに「含まれている」と感じられる状態を目指す考え方です。
この記事では、インクルージョンとは具体的にどのような概念なのか、なぜそれが重要なのか、そして私たち一人ひとりがインクルージョンを実現するためにできることについて解説します。
インクルージョン(包摂)とは?
インクルージョンとは、「多様な人々がお互いを認め合い、それぞれの違いが尊重されながら、共に社会の一員として活動し、貢献できる状態」を指します。これは、単に多様な人々が存在している状態である「ダイバーシティ(Diversity)」とは異なります。
ダイバーシティは、性別、年齢、国籍、文化、性的指向、障がいの有無、経験、考え方など、様々な違いを持つ人々が集まっている状態そのものを指します。一方でインクルージョンは、その集まりの中で、それぞれの違いが価値として認識され、誰もが排除されることなく、自分の居場所があり、意見を述べ、能力を発揮できるような「状態」や「プロセス」に焦点を当てています。
例えるならば、ダイバーシティは様々な材料がある状態、インクルージョンはその材料が活かされて美味しい料理が作られる状態、と考えることができるかもしれません。
つまり、インクルージョンはダイバーシティをさらに一歩進めた概念であり、多様な個々人が組織や社会の中で能力を最大限に発揮できるような環境を整備することを目指します。
インクルージョンの重要性
なぜ、インクルージョンは現代社会においてこれほどまでに重要視されているのでしょうか。その理由としては、以下のような点が挙げられます。
1. 個人の尊重と幸福度の向上
インクルーシブな環境では、一人ひとりの個性や違いが肯定的に受け入れられます。これにより、人々は本来の自分を偽ることなく、安心して活動できるようになります。自分の意見が尊重され、貢献が認められることは、自己肯定感を高め、個人の幸福度やwell-being(心身ともに健康で満たされた状態)の向上に繋がります。
2. イノベーションと創造性の促進
多様なバックグラウンドや視点を持つ人々が集まり、自由に意見交換できる環境は、新しいアイデアや異なる視点の融合を促します。これにより、既存の枠にとらわれない革新的な発想が生まれやすくなり、組織や社会全体の創造性の向上に貢献します。
3. 組織のパフォーマンス向上
インクルーシブな組織では、従業員がエンゲージメント(組織への貢献意欲や愛着)を高め、離職率が低下する傾向が見られます。また、多様な顧客ニーズへの対応力が高まり、より良い意思決定が可能になることから、結果として組織のパフォーマンス向上や持続的な成長に繋がると考えられています。
4. 社会の安定と発展
社会全体としてインクルージョンが進むことは、特定の属性を持つ人々が不利な扱いを受けたり、孤立したりすることを防ぎます。誰もが社会の一員として尊重され、参加できる機会を持つことで、社会全体の連帯感が高まり、安定した発展に寄与します。
インクルージョンを実現するために
インクルージョンは、特定の誰かだけが取り組むべき課題ではなく、私たち一人ひとりが日々の生活や活動の中で意識し、実践していくべきものです。では、具体的にどのようなことができるでしょうか。
1. 自身の「無意識の偏見」に気づく
私たちは皆、育ってきた環境や経験によって、様々な「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)」を持っています。これが、知らず知らずのうちに他者を排除したり、決めつけたりすることに繋がる場合があります。自身の考え方や行動の中に偏見がないか、立ち止まって考えてみることが重要です。
2. 異なる意見や視点に耳を傾ける
自分とは異なる意見や考え方に触れたとき、すぐに否定するのではなく、まずは相手の立場や背景を理解しようと努める姿勢が大切です。多様な視点を受け入れることから、新たな気づきや学びが生まれます。
3. 対話を促進する環境を作る
誰もが安心して自分の意見を述べられるような、開かれた対話の場を作ることが重要です。意見の相違があったとしても、感情的にならず、お互いを尊重しながら建設的に話し合う機会を設けることで、理解を深めることができます。
4. 制度や慣行を見直す
組織や社会にある制度や慣行が、特定の属性の人々にとって不利になっていないか、排除に繋がっていないかを見直すこともインクルージョンの実現には不可欠です。採用プロセス、評価制度、情報の提供方法など、様々な側面から検討を行う必要があります。
まとめ:インクルージョンが目指す社会
インクルージョンは、違いを単なる「違い」として終わらせるのではなく、一人ひとりが持つ個性や能力が輝き、それが社会全体の豊かさに繋がる状態を目指す考え方です。それは、特定の誰かにとって「優しい」社会ではなく、誰もが自分らしく、安心して、そして主体的に関われる「公平で公正な」社会の実現に向けた取り組みと言えるでしょう。
インクルージョンへの道のりは決して平坦ではないかもしれませんが、私たち一人ひとりが多様性を価値として捉え、お互いを尊重し、包み容れる努力を続けることで、その実現に近づくことができます。「多様性を語る場」は、まさにそうした対話と学びを深めるための場所です。この記事が、インクルージョンについて考え、理解を深める一助となれば幸いです。