マイクロアグレッションとは?気づきにくい日常の差別
マイクロアグレッションとは
私たちが日常生活を送る中で、特定の属性を持つ人々に対して、意図せずとも不快感や疎外感を与えてしまうような、些細に見える言動が存在します。このような言動は「マイクロアグレッション」と呼ばれています。これは、人種、性別、性的指向、障がい、宗教、年齢など、多様な属性を持つ人々に対する無意識的あるいは意識的な偏見や差別意識が、日常的なやり取りの中で「小さな攻撃」として現れる現象を指します。
マイクロアグレッションという概念は、アメリカの精神科医・ハーバード大学名誉教授であるダーウィン・スー氏らによって提唱され、広く知られるようになりました。
なぜ「マイクロ」でも重要なのか
「マイクロ」という言葉がついているため、一見些細で軽微なものと捉えられがちです。しかし、マイクロアグレッションは、受けた側にとって決して小さな問題ではありません。一度きりではなく、繰り返し経験することで、以下のような様々な影響を与える可能性があります。
- 精神的な負担の蓄積: 日常的に不快な言動に触れることは、ストレスや疲労を蓄積させます。
- 自己肯定感の低下: 自身の属性が否定的に扱われることで、自信を失ったり、自分自身のアイデンティティに疑問を感じたりすることがあります。
- 疎外感や孤立: 所属するコミュニティや職場、学校などで、自分は完全に受け入れられていない、居場所がないと感じてしまうことがあります。
- パフォーマンスへの影響: 精神的な負担や疎外感は、学業や仕事のパフォーマンスにも悪影響を及ぼす可能性があります。
また、マイクロアグレッションはしばしば無意識のうちに行われるため、受けた側が「これはマイクロアグレッションだ」と明確に認識しづらい場合や、周囲に理解されにくい場合も多くあります。「考えすぎだ」「悪気はなかったのだろう」などと言われ、自身の感じた不快感を正当化できず、さらに苦しむこともあります。
マイクロアグレッションの具体例
マイクロアグレッションは様々な形で現れますが、いくつかの典型的な例を挙げます。
- 「〇〇さんって、△△人なのに本当に日本語(あるいは特定のスキル)がお上手ですね」: 特定の国籍や人種に対するステレオタイプに基づいた発言であり、相手の努力や能力をその属性に結びつけて驚きを示すことは、無意識の差別となり得ます。
- 性別に基づいて役割を決めつける発言: 「女性なんだからお茶汲みはよろしく」「男性ならこれくらいできて当然」といった、性別役割分業の意識が反映された発言です。
- 性的マイノリティの方に対する不用意な質問: パートナーの性別を前提とした質問や、カミングアウトを強要するような質問は、プライバシーの侵害や偏見に基づいている場合があります。
- 障がいのある方への過剰な手助けや決めつけ: 相手の意思を確認せずに手助けをしたり、「どうせできないだろう」と決めつけたりすることは、自律性や能力を軽視するマイクロアグレッションとなり得ます。
- 年齢に関する否定的な決めつけ: 「もう年だから新しいことは覚えられない」「若いから常識がない」といった、年齢によるステレオタイプに基づいた発言です。
これらの例はあくまで一部であり、状況や受け手の経験によって、マイクロアグレッションとなる言動は多様です。重要なのは、意図があったかどうかに関わらず、受け手がどのように感じたかという点です。
私たちがマイクロアグレッションに対してできること
マイクロアグレッションは、私たちが無意識のうちに加害者になってしまう可能性も十分にあります。では、これに対して私たちはどのように向き合えば良いのでしょうか。
- 学ぶこと、気づくこと: マイクロアグレッションという概念を知り、どのような言動がそれに当たる可能性があるのかを学ぶことが第一歩です。自身の無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)に気づく努力も重要です。
- 立ち止まって考える習慣を持つこと: 発言する前に、「この言葉は相手を傷つけないか」「私の発言は何か特定の属性に対する偏見に基づいていないか」と一度立ち止まって考える習慣を持つことが大切です。
- 対話を恐れないこと: もし自分がマイクロアグレッションをしてしまったと指摘されたり、あるいは他者のマイクロアグレッションを目にしたりした場合、それを学びの機会と捉え、対話を通じて理解を深める姿勢が重要です。指摘された側は、まずは相手の感情を受け止め、誠実に謝罪することが関係性の修復につながります。
- 傍観者にならないこと: マイクロアグレッションを目撃した際に、安全な範囲で適切な対応をとることも、より良い環境を作るために重要です。
まとめ
マイクロアグレッションは、日常生活に潜む、小さくとも見過ごせない差別や偏見の現れです。これへの理解を深めることは、多様なバックグラウンドを持つ人々が、それぞれの場所で安心して自分らしくいられる環境を作るために不可欠です。私たち一人ひとりが、自身の言動に意識を向け、他者への配慮を心がけることから、より包摂的で尊重し合える社会への一歩が始まります。