多様性を考える:年齢による偏見(エイジズム)とその影響
多様性とは、性別、性的指向、人種、国籍、障がい、宗教、価値観など、様々な違いを認め、尊重することです。こうした多様性の側面は多岐にわたりますが、今回はその中でも「年齢」に焦点を当てて考えてみたいと思います。
エイジズム(年齢による偏見)とは
エイジズム(Ageism)とは、年齢に基づいて個人や集団に対して抱かれるステレオタイプ(固定観念)、偏見、そして差別的な行動を指す言葉です。これは、特定の年齢層に対する否定的な態度や見方を指すことが多く、高齢者に対するものだけでなく、若者や特定の中間年齢層に対して向けられることもあります。
エイジズムは、人が持つ多様な属性の一つである「年齢」に対して、無意識のうちに特定のイメージや能力を結びつけてしまうことから生じやすいと考えられます。例えば、「高齢者は新しいことを学ぶのが難しい」「若者は経験が浅いから重要な仕事は任せられない」といった考えは、エイジズムの一例と言えるでしょう。
エイジズムの具体的な例
エイジズムは、私たちの日常生活や社会の様々な場面で見られます。
- コミュニケーション: 年齢を理由に能力や経験を過小評価したり、逆に過剰に単純化して話しかけたりする。
- 職場: 年齢を理由にした採用や昇進における差別、年齢による配置転換やリストラ、特定の年齢層に対するハラスメントなど。高齢者にはルーチンワークのみを任せたり、若手には過度な責任を負わせないといったケースも含まれ得ます。
- メディア: 特定の年齢層(特に高齢者)を弱者としてのみ描いたり、若者を未熟で無責任であるかのように描いたりするステレオタイプな描写。
- サービス: 年齢を理由に特定のサービスや機会から排除したり、不当な扱いをしたりする。
これらの例は、意識的に行われる場合もあれば、無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)として現れる場合もあります。
エイジズムがもたらす影響
エイジズムは、個人そして社会全体に様々な影響を及ぼします。
- 個人への影響: 年齢による偏見や差別を受けることで、自己肯定感の低下、孤立、精神的な苦痛につながることがあります。また、自身の能力や可能性を信じられなくなり、新たな挑戦を諦めてしまうといった機会損失も生じ得ます。特に職場におけるエイジズムは、働く意欲の低下やキャリア形成の妨げとなります。
- 社会への影響: エイジズムは、社会全体の活力を低下させる可能性があります。例えば、年齢を理由に多様な経験やスキルを持つ人々が活躍できる機会が失われることは、労働力不足や経済的な損失につながります。また、世代間の固定観念は、相互理解を妨げ、社会的な分断を深める原因ともなり得ます。多様な年齢層の視点やアイデアが活かされないことは、社会のイノベーションを阻害する要因にもなり得ます。
エイジズムにどう向き合うか
エイジズムは複雑な問題ですが、私たち一人ひとりが意識し、行動することで変化を生み出すことができます。
- エイジズムの存在に気づく: まず、エイジズムが身近に存在し、自分自身も無意識のうちに偏見を持っている可能性があることを認識することが第一歩です。
- 自身の偏見を問い直す: 「〇〇歳だからこうだろう」といった年齢に基づく決めつけをしていないか、自身の考え方や言葉遣いを振り返ってみましょう。アンコンシャス・バイアスは誰にでもありますが、それに気づき、意識的に修正しようと努めることが重要です。
- 多様な年齢層の人々と交流する: 特定の年齢層だけで固まるのではなく、異なる年齢層の人々と積極的に交流することで、年齢に基づく固定観念ではなく、一人ひとりの個性や経験に触れることができます。
- 年齢に関するステレオタイプな表現を避ける: 日常会話や文章において、「もう〇〇歳なのに」「まだ〇〇歳だから」といった年齢を理由にした否定的な、あるいは過度に決めつけるような表現を避けるように意識しましょう。
- 年齢ではなく個人を見る: その人の年齢だけで判断せず、その人が持つスキル、経験、知識、人柄といった個々の側面に目を向け、尊重する姿勢を持つことが大切です。
まとめ
エイジズムは、多様性を尊重する社会を実現する上で、見過ごせない課題の一つです。年齢は、その人が生きてきた時間を表す一つの側面ではありますが、その人の能力や価値を決定づけるものではありません。
年齢に基づく無意識の偏見や固定観念に気づき、それを乗り越えようと努めることは、ジェンダーやその他の多様な属性に対する理解と同様に重要です。年齢に関わらず、すべての人がその能力を最大限に発揮し、尊重される社会を目指すために、私たち一人ひとりがエイジズムについて学び、考え、行動していくことが求められています。